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対談

対談 かかりつけ医が知っておきたい心不全診療のコツ

語る人

九州大学循環器内科教授
筒井 裕之

聞く人

国立病院機構九州医療センター副院長
岡田 靖

外来患者の症状と徴候

岡田
本日は,今回の特集号の企画者である筒井先生をお迎えしての対談ということで,九州大学の57年同期の私が進行を務めさせていただきます。よろしくお願いします。
筒井
ありがとうございます。よろしくお願いします。
岡田
筒井先生は心不全の一連の研究で大変有名ですが,高齢化社会の中で,心房細動の患者さんが増加し,私は脳梗塞の予防と治療,筒井先生は心不全の予防と治療の立場でお互いの接点ができまして,時々お会いすることがあります。また,脳卒中・循環器病対策基本法が2018年12月に可決,成立しまして,2020年から本格的に,脳卒中・循環器病に対するさまざまな対策について,行政も含めた活動が広がってくることが期待されています。本日は特に,「かかりつけ医が知っておきたい心不全診療のコツ」を中心に,筒井先生にお話を伺っていきたいと思います。
 まず最初に,かかりつけの先生が何年にもわたって診ている高血圧や糖尿病の患者さんについて,これはひょっとしたら心不全の症状かもしれないなと気づくヒントになるような症状なり徴候なりがあったら教えてください。
筒井
高血圧も糖尿病も心不全の発症リスクを高めると言われています。高血圧や糖尿病の患者さんは症状がない方が多いので,患者さんが何か症状を訴えられたときには,よくその内容に耳を傾けていただく必要があると思います。特に注意していただきたい症状は息切れで,最初は労作時,階段を上ったときとか早足で歩いたときに息が切れると訴えられます。
 2番目は,むくみ・浮腫です。長く立ち仕事などをした後は,足のむくみが出やすいのですが,心不全では指で押しても跡が残るような,むくみが両足に出てくる。そして,むくみとともに体重も増えてきます。
 3番目は,疲れやすいという全身倦怠感があります。ただ,これも非常に一般的な症状で,患者さんは,ほかの人と一緒に歩いているときに,前はついていくのがそんなに大変ではなかったのが,だんだんしんどくなってきたと,よく訴えられます。
 まとめると心不全に特徴的な症候は,呼吸困難,浮腫,易疲労感,全身倦怠感です。申し上げたような形で患者さんが症状を訴えられる時には,心不全を念頭にあげていただく必要があると思います。
岡田
これは,かかりつけの先生の日常診療の中で,ある程度情報収集できる内容ですね。
筒井
そうですね,やはり心不全を疑っていただくということが大事です。ずっとかかっておられる患者さんの場合には,よく年のせいではないかと思われがちなので,特に高齢の方の場合,先生はもちろん看護師さんからも,「こういう症状はないですか」ということを定期的に聞いていただくのも必要だと思います。

検査と診断

図1 BNP,NT-proBNP 値の心不全診断へのカットオフ値
岡田
かかりつけの先生が自分の手持ちの検査などで,病歴なり所見なりを,これは心不全じゃないかなと思って確かめていくときには,どのような検査をするといいでしょうか。
筒井
心不全を疑ったときに,一番簡便な検査は,採血してBNPもしくはNT-proBNPを測定していただくことになります(図1)。BNPが100pg/mlを超えると心不全の疑いが強くなりますし,200pg/mlを超えると心不全の可能性がより高くなると判断します。BNPは心不全の診断に非常に有用なバイオマーカーです。
岡田
これは通常の保険診療で検査可能ということですね。
筒井
はい。
岡田
この検査の数値を見る上で,高ければ全て心不全ではないといった,ちょっと違ったことで注意しておくようなことがありますか。
筒井
そもそもBNPやNTproBNPは,Na利尿ペプチドとまとめて言われるのですが,心臓に機械的な負荷が加わったときに心臓自身が産生するホルモンです。
岡田
これは心臓からしか出ないのですか。
筒井
BNPは心室筋から産生されます。Na利尿ペプチドという名前のとおり,利尿作用を持っています。さらに,NO(一酸化窒素)という血管拡張作用を有している分子を増加させますので,心血管保護的に働くいわゆるいいホルモンなのです。このBNPは,心臓に機械的な負荷が加わったことに対して,心臓が代償しようとして産生するいいホルモンを測って,心不全かどうかを診断しようという検査です。
岡田
急性心筋梗塞のときに心筋が壊れて出てくるトロポニンなどのバイオマーカーとはちょっと違うものですね。
筒井
はい。これは,心臓にとってはいいホルモンを測って心臓の病気を診断しようということになります。先ほど100pg/mlであれば疑わしい,200pg/mlであればより確実だと表現しましたけれども,BNPはあくまでも心臓に加わっている負荷の状態をあらわしていることになります。患者さんからよく,BNPがいくつ以上になったら悪いんですかというご質問があるのですが,これはいいものを測っていますので,幾ら以上になったら病気だとは言えないバイオマーカーであるというのが一番の注意点です。
 あとは,BNPは腎機能が悪かったり,先ほど岡田先生から話があった心房細動でも上がることが知られています。逆に,肥満があると下がることがわかっています。BNPは心不全の診断に非常に有用な指標ですけれども,BNPだけで心不全を診断することは難しくて,先ほどお話しした症状,身体所見,胸部X線エコーを組み合わせて診断することが重要です。
岡田
心臓超音波は循環器のクリニックには結構置いていまして,かかりつけの先生との相互の連携などで相談したりすることもあると思うのですが,この心臓超音波については,どのような所見が心不全と結びつくのでしょうか。
筒井
心臓の機能を評価するということでは,左室駆出率EF(Ejection Fraction)を用います。これは心臓が1回拍動して収縮したときに何パーセントの血液を大動脈に向かって拍出するかという指標ですが,正常だと60%ぐらいです。これが40%以下になると低下している,50%あれば正常下限ということになっています。駆出率が低下していると心不全だとわかりやすいですが,駆出率が保たれているときに心不全ではないかというと,必ずしもそうではなくて,駆出率が保たれた心不全もあります。心臓は,血液を駆出した後に拡張して左心室に血液をためないといけないのですが,その拡張が悪くて,拡張させるのに力が必要になると,左室拡張期圧ひいては左房や肺静脈の圧が高くなって心不全の症状をおこしてきます。
 左室駆出率は非常に有用な指標で,心不全の診断によく使われます。しかし,心不全はあくまでも臨床的な病気であって,駆出率が保たれた心不全もあるので,注意が必要です。
 さらに,心臓超音波は,心不全の原因疾患の診断に,大変役立ちます。心筋梗塞,高血圧性心疾患,弁膜症などの,器質的心疾患の診断には最も有用な方法です。
岡田
心不全の指標であると同時に,心不全の原因となる心疾患の鑑別にもつながるということですね。
筒井
そうですね。
岡田
では,心不全の診断では,症状とBNPと心エコーというのは必須ですね。
筒井
そうですね。この3つは,心不全の診断には行っていただく必要がある必須のものと位置づけられています。

駆出率に基づく心不全の分類と特徴

岡田
駆出率が保たれた心不全もあるということですが,これは珍しい病態でしょうか。また,駆出率の落ちた心不全とどのような違いがあるのでしょうか。かかりつけの先生も,そういう駆出率の保たれた心不全を診る機会はあるのでしょうか。
筒井
駆出率が保たれた心不全は,高齢の方で,高血圧,糖尿病,心房細動をベースに持った患者さんが多いという特徴があります。日本は超高齢社会を迎えており,高血圧や心房細動の患者さんが増えていますので,先生がおっしゃったように,以前は駆出率が低下した心不全が主流だったのですが,今はむしろ駆出率が保たれている心不全のほうが主流になってきています。
岡田
主流になっているということは,かかりつけの先生も十分にそういった病態を知っておく必要があるということですね。
筒井
我々循環器専門医が診療している患者さんよりむしろかかりつけの先生のほうが,もっと高齢で,80歳代,90歳代の駆出率が保たれた心不全の患者さんを多く診ておられます。
岡田
症状としては心不全全般の症状と同じですか。それとも,この駆出率が保たれたものは,最初にご説明いただいた症状の中で何か違いがあるでしょうか。
筒井
症状としては基本的には同じです。息切れ,むくみ,疲労感。ただ,心拍出量が低下して,四肢冷感があったり,血圧が非常に低いといった症状は,駆出率が低下した心不全のほうに多いです。臓器鬱血による心不全の症状に関しては,駆出率にかかわらず,一般的に多くの心不全で見られる症状です。
岡田
では,この駆出率が保たれた場合には,必ずしも冷感はなく,血圧も正常というような患者さんもいらっしゃる?
筒井
そうですね。むしろ高血圧の患者さんも結構おられます。

専門医療施設への紹介

岡田
ではかかりつけの先生が,もう少し高度な検査のある医療機関,例えば九州大学病院などに紹介するときには,患者さんのどんなことを目的に紹介すればいいのでしょうか。
筒井
第1は,心不全の診断の確定ですね。まずは心不全を疑っていただくことが必要ですが,日常の診療では確定診断がなかなか難しいこともあります。というのは,先ほどお話しした息切れ,むくみ,易疲労感は,心不全でなくてもCOPDなどの呼吸器疾患や,貧血でもよくある症状です。高齢であるだけでもおこりやすい症状ですし,さらに,高齢の患者さんはこれらの病気が同時にあるということもあります。そうすると,心不全の確定診断や心不全がメインなのかという診断,すなわちその患者さんの中で心不全がどれぐらい重要な位置を占めているのかという重症度診断が難しい場合もあります。合併症,併存症を持っている心不全の患者さんが多いということを念頭におきながら,まずは心不全の診断を確定させるのが,我々に患者さんを紹介いただく目的ということになります。
 2番目は,心不全の原因になっている器質的心疾患の診断です。かかりつけの先生方のところで,症状とBNPとエコーで心不全をつけていただいた患者さんで,その心不全の原因になった心疾患の診断が難しい場合もあります。そういう時は是非ご紹介いただければと思います。
岡田
エコーで明解に心筋梗塞や弁膜症などがなくて,何だろうなと思ったときは,そこの精査も含めて大学病院なり総合病院にお願いするということでいいのですね。
筒井
そうですね。原因疾患が明らかでないときで,特に心電図で心筋梗塞は明らかでない,胸痛や虚血が疑われる所見もないという場合でも,やはり冠動脈疾患の除外は必要です。さらに最近は,身体所見だけではなかなか診断が難しい,大動脈弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全症などの変性による弁膜症も増えています。これらの診断,特に重症度診断にやはりエコーは有力です。
岡田
その場合は,開業医の先生が簡易的に評価しているものではなくて,高品質のエコーですね。
筒井
そうですね。弁膜症ではドップラーを使って弁狭窄や逆流の重症度も含めて診断することができます。軽症な弁膜症は,高齢の方では,非常に多いので,それが心不全に寄与しているかどうかは,心エコーを使って重症度を評価をする必要があります。また最近特に高齢の患者さんで注目されている老人性全身性アミロイドーシスという病気もあります。最近はトランスサイレチン型心アミロイドーシスと言われているものです。トランスサイレチンの遺伝子変異によるものは家族性アミロイドポリニューロパチーという非常にまれな遺伝性疾患ですけれども,高齢者に見られるのはトランスサイレチン遺伝子の変異を伴わない野生型トランスサイレチンの加齢変性によるアミロイドの心臓への蓄積が原因の病気です。この病気が,先ほどお話ししたHFpEFの患者さんの15%に含まれているというのが海外から報告されていて,実際,高齢の高血圧によるHFpEFの患者さんで左室肥の原因が,心アミロイドーシスだったという経験が増えてきています。多くの患者さんが診断されずに,潜在化している可能性があります。以前は診断がきちんとできたとしても治療法がなかったのですが,最近,トランスサイレチン型心アミロイドーシスに対する新たな治療薬も開発されていますので,早期に診断をつけることが今後ますます重要になってくると思います。
岡田
バイオマーカーで単なる心不全だということで終わることなく,病態とか原因疾患などで,もうちょっと詳しく調べたほうがいいだろうと思ったときには,大学病院あるいは総合病院と連携して診断するということですね。
筒井
そうですね。かかりつけの先生は,基幹病院や大学病院と連携をとっておられると思いますが,病院と連携して心不全の患者さんの診断,治療を一緒にやっていくという体制を,積極的につくって病診連携・医療連携を強めていただければと思います。

薬物療法

図2 心不全治療アルゴリズム
岡田
では,大学病院で診断なり病態なりがある程度はっきりした後,かかりつけの先生でも行っていけるような薬物療法や日常生活の指導のポイントについて教えてください。
筒井
薬物治療の選択には,先ほどの左室駆出率が重要になってきます。左室駆出率が低下した心不全の患者さん(図2,HFrEF)では,今まで行われた大規模臨床試験で,ACE阻害薬またはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬,β遮断薬,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA),この3系統の薬剤が生命予後を改善するということがわかっていますので,これらの薬剤を必ず服用していただくようにします。
岡田
これは,1種類ずつ使って増薬するという使い方ではなくて,3種とも使うことが多いのでしょうか。
筒井
新規に導入するときにはACE阻害薬またはARBから始めて,それからβ遮断薬を追加していくようにします。
岡田
β遮断薬は,脈拍をコントロールするものと量が少し違いますか。
筒井
もともとβ遮断薬は心不全には禁忌と言われていたわけですが,非常に小用量から徐々に増やしていくと心不全の患者さんの生命予後を改善するということがわかっていますので,心不全治療薬として適応症を持っているカルベジロール(アーチスト)またはビソプロロール(メインテート)を少量から始めて,徐々に増量して維持量までもっていきます。かかりつけの先生のところでは,病院で導入されて維持量になっていれば,その用量を継続していただければと思います。
岡田
もう一つのMRAですけど,これはエプレレノン(セララ)のことでしょうか。
筒井
そうです。MRAはミネラルコルチコイド受容体拮抗薬で,アルドステロン拮抗薬とか抗アルドステロン薬とも言いますが,薬剤としては,セララと以前からあるアルダクトンAが含まれます。これは,どちらもカリウム保持性利尿薬として,ループ利尿薬のフロセミド(ラシックス)などの併用薬として以前から使われていました。ループ利尿薬と併用することで低カリウム血症を予防できるといった作用もあるのですが,大規模臨床試験で生命予後も改善するというエビデンスをふまえて,ACE阻害薬かARBとβ遮断薬とともに投与されます。ただ,ACE阻害薬やARBと併用しますので,腎機能障害や高カリウム血症に注意しながら使っていただく必要があります。
 一方,HFpEF-駆出率が保たれた心不全のほうは,HFrEF-駆出率が低下した心不全と違って,生命予後を改善する薬剤が大規模臨床試験で証明されていません。今のところHFrEFとちがって推奨される特定の薬剤はなく,高血圧,心房細動,冠動脈疾患などの併存症が多いので,それらの治療をきちっと行うことが重要と考えられています。
岡田
高齢者のトランスサイレチン型心アミロイドーシスの治療についてどうでしょうか。
筒井
臨床試験でタファミジスの有効性が証明されましたので,将来的には心アミロイドーシス治療薬としても承認されると思われますけど,現状では,息切れとか浮腫などの臓器うっ血に対しては利尿薬でコントロールするということになります。
岡田
利尿薬はフロセミドでいいのですか。
筒井
そうですね,一番即効性があって確実な薬剤は,やはりループ利尿薬のフロセミド(ラシックス)ですね。ループ利尿薬は鬱血の程度を見ながら用量を調整していただくのが非常に重要です。患者さんは,心不全が増悪して入院治療を受けた後,退院されるときには症状がかなり良くなっていますので,病気も良くなったと思われることも多いです。かかりつけの先生のところでは,患者さんが薬をきちんと継続していただくようサポートしていただくのが大切です。
岡田
継続,アドヒアランスが大事なんですね。
筒井
心不全は特に治療へのアドヒアランスが大事です。薬物療法の継続と減塩を守っていただくのは必須ですね。

非薬物療法と生活指導

岡田
日常生活指導としては減塩が最も重要ですか。生活指導について教えて下さい。
筒井
一番は減塩ですね。重症例で低ナトリウム血症がない限りは,必ずしも水分を極端に制限していただく必要はありません。
 それから,ウォーキングなど有酸素運動を主体とした運動療法自体は心不全に対していいのですが,やはり重たい物を持ったりする過労は心不全増悪の原因になりますので注意が必要です。
 それから,ちょうどインフルエンザの季節になってきましたけれども,上気道感染症は心不全増悪の誘因になりやすいので,早目の対応が望まれます。特にかかりつけの先生には,薬物療法,減塩などのアドヒアランス,感染症対応,血圧や体重管理といった日常生活のことを細かく管理をしていただけると,ありがたいと思います。ガイドラインどおりの薬物治療や非薬物治療を標準治療としてやっていくのは前提ですが,1ヵ月や2ヵ月に1回の外来診療だけでは,増悪による再入院を完全には予防できませんので,かかりつけの先生のところで十分な疾患管理を実践していただくというのは非常に重要なことです。
岡田
あと,体重測定はどうですか。これはひょっとしたら大事なのかなと。
筒井
まさしくそのとおりで,浮腫,臓器鬱血が起こっていないかどうかを確認するために,毎日体重を測っていただくよう患者さんにお願いしています。家庭血圧計で血圧と脈拍を測っていただくようにします。心不全の場合,体重測定は非常に重要で,必ず手帳などに記録していただきます。4~5日で体重が2~3㎏増えた場合,心不全の悪化の可能性があります。体重測定は心不全増悪の早期診断ひいては早期治療につながります。
岡田
心不全患者をかかりつけの先生が診ていく中で,1つは,薬をやめるというのがいけませんよね。これで急激に悪化しますけど,かかりつけの先生に注意喚起しておくようなその他の誘因や徴候がありますでしょうか。
筒井
体重増加とともに,階段や坂道など動いた時の労作時の呼吸困難が強くなってくるかどうかも注意が必要です。
岡田
心不全の既往のある人の体重1~2㎏の増加に対しては,かかりつけの先生も,外来で敏感に認識して,診察なり説明を加えていくということが大事ですね。
筒井
そうですね。かかりつけの先生のところで,フロセミド(ラシックス)10㎎を少し追加して服用していただくということで対応できることがあります。そこの判断が非常に難しいのは,労作による呼吸困難は徐々に起こるのですが,発作性夜間呼吸困難というのは急に起こってきます。昼間は大丈夫でも,夜は臥位になって交感神経活性も少なくなってきますから,下肢の血管外の間質にたまっていた水分が血管中に戻ってきて,心臓に戻ってくる静脈還流が増えて,症状が出てきます。
岡田
夜中寝ていると肺の血流や換気も悪くなるんですね。
筒井
ええ。そういうことで発作性夜間呼吸困難が起こってきます。
岡田
それが心不全の症状だということには,なかなか気がつきにくいですよね。
筒井
これは心不全が増悪した急性心不全に特徴的な症状と言われています。昼間そういう症状はなくても夜間になって比較的急に起こってきます。ただ,よくよくお話を聞くと,やはり数日か前から体重が増えて労作による呼吸困難が強くなっていることが多いです。
岡田
そういう前兆があるわけですね。
筒井
はい。安静にしていると呼吸困難はひどくないし,体重がちょっと増えたけど大丈夫だろうと思っていると,夜間に突然呼吸困難が起こるという形をとりやすいので,やはり日常の経過観察では,患者さんがつけておられる手帳の体重の推移に注意していただければと思います。
岡田
インフルエンザとか肺炎も重なると,急に心不全悪化が懸念され避けたい誘因ですね。
筒井
ええ。心不全増悪の誘因として上気道感染症,風邪も多いです。風邪は万病のもとと言いますけど,心不全の患者さんでは,風邪などの上気道感染症はぜひ避けておきたいですね。かかりつけの先生にインフルエンザなど上気道感染症の治療をお願いさせていただくのですが,そのときに心不全が悪くなっていないかどうか,気をつけて一緒に診ていただければと思います。

入院治療の判断

岡田
あと,かかりつけの先生は患者さんをなるべく診てあげたいのですが,ここまで来たら入院という判断のポイントを教えてください。
筒井
まず第1は,息切れや浮腫といった症状がガイドラインに基づく標準治療をしてもなかなか改善しないときです。そのような原因として,もともとの心不全の原因となっている基礎心疾患が悪くなっている可能性もあります。標準治療の強化をするとともに心不全の原因疾患や併存症の再評価を行います。
 2番目は,心不全自体が急速に悪くなった場合,急性肺水腫やショックになったときは,緊急入院が必要です。
 3番目は,心不全にほかの病気を合併した場合です。肺炎やCOPD・腎機能障害などの併存症が起こってくると,心不全自体の治療も難しくなってくることがあります。またがんなど他の病気が診断され手術が必要な場合ですね。そういう場合にはぜひご紹介をしていただいて,多くの場合は入院治療や管理が必要になると思います。

行政の動き

岡田
最後に,日本脳卒中学会と循環器学会とで,脳卒中・循環器病対策基本法の成立に向けて一緒に運動をしてきましたが,筒井先生には,心不全学会の理事長として多大なる貢献をしていただきまして,この法案が可決,成立しました。その目標の一つとして,心不全での死亡減少が揚げられていますが,先生ご自身には,これからの学会活動で活動目標がございますか。
筒井
岡田先生から紹介されたように,脳卒中・循環器病対策基本法が12月10日に成立しました。これはもともと岡田先生,山口武典先生らが10年以上前から,日本では癌と心臓病に引き続いて,脳卒中が重要な死因になっており脳卒中は,健康寿命を障害して寝たきりや認知症の原因となるため,国を挙げての対策が必要だということで,法制化を目指して長らく活動してこられました。2年前から脳卒中に循環器病も加えて,ようやく基本法として成立したということです。何といっても患者さん,それから医療従事者にとって,非常に大きな前進になると思います。
 日本脳卒中学会と日本循環器学会が中心になって,いろいろと議論し2年前に「脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画」を作りました。その中で,対策が必要な重要3疾患を,脳卒中,心不全,血管病として,5戦略として,人材育成,医療体制の充実,登録事業の促進,予防・国民への啓発,臨床・基礎研究の強化を掲げています。
 脳卒中・循環器病対策基本法が成立しましたので今後,まさに岡田先生がおっしゃったように,脳卒中と,心不全や心房細動も含めた循環器病,これらの病気について幅広く国民の皆さんに知っていただく予防・啓発活動や,医療供給体制の整備を強力に推し進めていくことになると思います。岡田先生は既に取り組んでおられますけど,脳卒中に加えて心不全・血管病の初期治療から急性期,慢性期,リハビリテーションまでの医療体制を地域医療圏の中できちんと整備していく必要があります。今後,厚生労働省を中心に,このような対策の推進基本計画ができると思いますが,我々も学会として貢献していきたいと思っています。
 さらに,大学研究者としては,癌のような登録事業が,脳卒中や循環器病でも全国のレベルで進むことや,基礎・臨床研究の強化がはかられることにも大いに期待しています。
岡田
心不全に関する全国の実態調査が始まると,まず筒井先生が中心になって行う事業になると思います。
筒井
そういった循環器医療の実態を把握し,質の向上に資するような,全国レベルでの悉皆性の高い患者登録事業も充実すると思いますし,基礎研究や臨床研究では,脳卒中・循環器病も癌と同じように活発化するといいですね。患者さんはもとより,かかりつけの先生,基幹病院の先生,大学も含めて,来年はまさに脳卒中・循環器病対策元年になると思います。先生方の長らくのご苦労がようやく現実のものになるということで,大変ありがたいことだと思います。

新たな臨床研究

岡田
最後に,筒井先生が今考えておられる心不全治療の新たな研究や今後の展望が何かありましたらお聞かせください。
筒井
心不全の病態の解明が進み確かに,薬物治療,非薬物治療も随分進歩してきたと思います。一方,人口高齢化の中で心不全の患者さんが全世界的に増えていて,心不全パンデミックという言葉もあるぐらいですし,さらに予後の改善もまだまだ十分ではないと思います。基礎研究の成果をもとにした新たな治療を開発する研究が必要です。
 心不全の病態の形成・進展に心筋での慢性炎症が非常に関係していることがわかってきています。この慢性炎症を制御するのに,肺癌の先進医療として行われているナチュラルキラーT細胞を活性化する細胞治療を,心不全の患者さんに応用しようという研究開発に今取り組んでいます。
 ずっと動物実験から治験実施のための準備をしてきたのですが,11月に九州大学病院の医師主導治験の倫理審査委員会で承認されて,PMDAに治験届を提出しました。まずはこの細胞治療の安全性を医師主導治験として心不全患者さんで検証する予定です。さらに有効性を検証したいと思っています。少なくとも動物実験では非常に有効だというデータが出ていますので,患者さんの実際の治療としてお届けできるように,今後も研究開発を進めていきたいと思っています。
岡田
本日は,かかりつけ医が知っておきたい心不全の症状や検査,治療のポイントから始まり,これからの心不全医療の動向や臨床研究の展望まで,非常に広範囲にお話を伺いました。早速,明日からの診療に役立つお話をわかりやすくおきかせいただき,ありがとうございました。

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