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大道学館コラム 第1回

脳梗塞には様々な病型があるって知っていますか?

脳血管障害は、脳の血管が詰まったり破れたりして、神経細胞へ血液が行き届かなくなり、神経機能に支障が出る病気です。心筋梗塞が多い欧米人に比べ、同じ血管病でも、日本人では脳血管障害の頻度が高いことが知られています。

脳血管障害の診療は、画像診断の発達とともに飛躍的な進歩を遂げてきました。CT検査の普及により、脳梗塞と脳出血の区別が100%できるようになりました。その後普及したMRI検査やMR血管撮影検査(MRA)により、今では脳内の詳細な病変や脳主幹動脈(頸部~脳表面の太い血管)の病変も視覚化することができます。さらに、超音波検査によって患者さんに負担をかけることなく頸部血管、頭蓋内血管の狭窄部位や血流が評価できるようになり、一口に脳梗塞と言っても様々な病態が存在することがわかってきました。

病態により脳梗塞の急性期治療は異なります。病態によって慢性期の再発予防管理や、手術前後の休薬で脳梗塞が再発する危険性も全く異なります。脳卒中専門医でなくとも、脳梗塞既往のある患者を担当する医師やコメディカルスタッフは、その患者がどのような病態によって脳梗塞を生じたのか、大まかに把握しておく必要があります。

第1の病態は、頸部から脳の表面を走る動脈(脳主幹動脈)が狭窄もしくは閉塞して生じる脳梗塞で、アテローム血栓性梗塞と呼ばれます。その発生リスクや機序は心筋梗塞と類似しており、生活習慣の欧米化により日本人でも頻度が増えています。

一方、脳表面の主幹動脈から枝分かれし、脳内部へ入っていく細い血管を穿通枝動脈といいますが、第2の病態は、この穿通枝動脈の末梢部が詰まるもので、ラクナ梗塞と呼ばれます。穿通枝血管は血圧の影響を受けやすく、詰まらずに破れると脳出血となります。日本人は脳出血やラクナ梗塞を発症しやすいので、欧米人に比べると穿通枝動脈が傷みやすい民族ということができます。

第3の病態は、脳血管そのものはもともと健康で、狭窄や閉塞はないにもかかわらず、心臓内で生じた血液の固まりが脳へ流れ出て、脳動脈に詰まってしまうもので、心原性脳塞栓と呼ばれます。その原因の多くは心房細動による左心房内血栓です。加齢に伴い心房細動の頻度は増えてきます。心原性脳塞栓は高齢者に多く、最も予後不良の病態です。

これらが脳梗塞の3大病型になりますが、加えて、(1).大動脈弓部・動脈硬化粥腫の破綻栓子による大動脈原性塞栓、(2).脳主幹動脈が裂ける動脈解離を原因とする脳梗塞、(3).穿通枝血管の起始部が閉塞し、発症後も症状が悪化しやすいBranch Atheromatous Disease (BAD)、(4).下肢深部静脈などにできた血栓が卵円孔などの右左シャントを介して体循環に入り、脳血管を詰める奇異性脳塞栓など、様々な病態が存在することがわかってきました。

脳梗塞急性期には、正確な病型診断を行った上で、病態に適した治療を行う必要があります。また、慢性期再発予防の観点からも正確な病型診断が必要です。

(2011.10/27)

著者紹介
九州大学病院腎・高血圧・脳血管内科 講師
医学博士 吾郷 哲朗