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対談

無症候性心房細動をどう診断するか

語る人

産業医科大学不整脈先端治療学 教授
安部 治彦

聞く人

九州大学循環器内科 教授
筒井 裕之

筒井
心房細動は,数多くある循環器疾患の中でも大変有名な不整脈の一つです。心房細動がありますと,野球の長嶋監督やサッカーのオシム監督のように,塞栓症によって脳梗塞を来すという心源性脳塞栓症になるリスクがあります。従来から心源性脳梗塞の予防には,抗凝固薬ワルファリンが使われてきたのですけれども,新しい機序の抗凝固薬が登場してきました。また,心房細動を洞調律に戻すカテーテルアブレーション治療がありますが,大変広く行われる治療になってきました。さらに,従来からの高周波を使ったアブレーションに加えて,最近では,クライオアブレーションやホットバルーンによるアブレーションといった新たなデバイスも出てきていまして,カテーテルアブレーションも新しい時代になっています。何といいましても,治療成績が大変良くなってきたので,急速に広まっています。
心房細動は,昔からある,よく知られた不整脈の一つとして,多くの先生方が日常診療の中で経験しておられます。治療の進歩にともなって,この心房細動をいかに早期に診断するかということがかつてないほど注目されています。しかしながら,心房細動の約4割は全く症状がないと言われています。そうしますと,日常診療の中でどのようにして心房細動を見つけるのか,どのように検査をやっていくのかということが,非常に大きな問題になっています。特に心房細動の患者さんを多く診ておられるかかりつけ医の先生方が,どういうことを実践していけばいいのかということをテーマに,本日は我が国の不整脈診療の第一人者である,産業医科大学の安部治彦教授に来ていただきましたので,お話をお伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

心房細動は,common disease

筒井
まず最初に,心房細動の患者さんは,高齢化に伴って非常に増えてきていると言われているのですけれども,心房細動を起こしやすい患者さんといいますか,起こしやすくするリスクというのは,どういったものがあるのでしょうか。
安部
やはり一番大きな要因は加齢だと思います。高齢になればなるほど頻度も増えているという事実がございますし,加齢は一番強い因子と考えております。それ以外にも,高血圧の持病がある患者さん,糖尿病の患者さん,あるいは心臓の機能が低下した患者さんでは,心房細動の発症頻度が高いと言われています。
筒井
そうすると,心房細動は,循環器疾患の中でも高齢者のコモンディジーズといえますね。
安部
そうですね,そういう認識でおります。
筒井
心電図で,心房細動の診断自体は極めて簡単で,学生の教科書の中でも,心房細動の心電図というのは必ず出てくるくらいですが,実際には,外来の心電図では,心房細動より心房期外収縮が検出されて,病院にお見えになるという患者さんも多いと思います。心房期外収縮がたくさん出ている場合もあると思います。こういった外来の心電図でたまたま記録された心房期外収縮というのは,どういうふうに捉えたらいいのでしょうか。
安部
明らかな動悸症状があったり,あるいは脈の不整に気づいてお越しになる患者さんの場合には,我々は心房細動がかくれているのではないかと疑うわけですけれども,そういう症状はないのに,たまたま期外収縮で心電図にひっかかるという患者さんも,実はたくさんいらっしゃいます。心房性期外収縮と心房細動というのは,根本的に違うわけですけれども,心房性期外収縮は,心房細動の引き金になるということで注目する必要があります。
ただ,心房性期外収縮が多ければ心房細動が起こるかというと,必ずしもそうではない。ですので,心房細動,心房性期外収縮の捉え方としては,心房期外収縮が多い患者さんの場合には,その時点では心房細動がなくても,今後心房細動が発症してくる可能性というのは,通常の方に比べると高いのではないかと思います。
筒井
そうすると,心房期外収縮で即心房細動になるわけではないけれども,よりハイリスクな患者さんであるということで,さらに診断を進めていく必要があるということになりますね。
安部
そうですね。期外収縮があって,左房もちょっと大きかったり,高血圧があったり,ほかの条件もそろってきますと,やはり心房細動になっていく確率は高まってくると思います。

ホルター心電図だけでは,十分でない

安部
多くの先生が,まずは24時間ホルター心電図をとって,心房細動があるかどうか診断しましょうと検査されると思います。それくらいホルター心電図は,一般的な検査になっていますけれど,不整脈の検出率は期待するほど高くないですよね。
安部
そうですね。
筒井
24時間ホルター心電図だけで十分かということになるのですが,その点はいかがでしょうか。
安部
ホルター心電図というのは,一般医家では非常に信用されている検査でありますので,有用であることは間違いない。たまたまその24時間で心房細動がつかまる場合はいいと思いますけれども,実際に心房細動が起こっていても,その装着している24時間ではつかまらないというケースもたくさんございます。なので,ホルター心電図で異常がなければ,大丈夫ということには全くならないのですけれども,ある意味,スクリーニング検査として使われているのが,現状ではないでしょうか。
しかし,そういう検査をやる上で,その患者さんが,期外収縮だけではなくて,以前に脳􄼷塞を起こされているとか,弁膜症をお持ちとか,そういう病気がある場合には,心房細動の存在を強く疑って検査をする。もし一度のホルター心電図でつかまらなくても,繰り返して検査をするということも,一般的にやられていることだと思います。

長時間心電図記録ができる機器があります

筒井
ホルター心電図は非常に一般的な検査になっていますが,24時間では不整脈の検出が十分でないとも言われていますね。さらに長時間記録するような植え込み型デバイスや,ウェアラブルデバイスや,いろいろな機器が最近多く出てきています。先生も実際にそのような機器の開発に携わっておられますけれども,どのような長時間心電図記録デバイスがあるか,ご紹介いただけませんか。
安部
心房細動の患者さんというのは,症状のある患者さんもいるのですけれども,実は症状のない,いわゆる無症候性の心房細動患者さんというのは,それ以上に多いと考えられているわけです。
心房細動の治療を行う上で一番大きなポイントは,脳梗塞とか,そういうものの予防が必要になってくるということでございます。ですから,脳梗塞の予防という面から見ると,症状があろうとなかろうと関係ないわけです。心房細動があるかないかが非常に大事なわけで,そういう意味では,この患者さんに心房細動があるかないかを判断するためには,24時間ではまだ不十分であると考えられます。現在,国内で心房細動を検出するためには,いろんな装置がございまして,例えばイベント心電計というのがございます。これは動悸といった症状があったときに,患者さんが自分で胸に当てたり手に持ったりして,そのときの心電図を記録する装置でありまして,これは普通の家電でも市販されています。それ以外に,長時間といっても3週間ぐらいですけれども,ベルト式のループ式心電計というのがございます。これは常に心電図をとっているんですけれども,症状があったときにボタンを押すと,さかのぼって心電図が記録されるといったものでございます。勿論,症状がなくても心電図異常があると,自動記録も します。そういう長時間の心電計を使ってつかまえるということも,現実的にはよくやっています。
脳梗塞を起こしたけど,その原因がわからない。それで,そういう装置をつけて初めて心房細動が検出されたということも良くありますし,抗凝固療法をする上では,心房細動の検出,その証拠をつかまえるということは,臨床的に非常に大事ですので,そういう装置が使われることになります。

機器の進歩は目ざましい

筒井
最近,胸のところにバンドのようにして取りつけて,最長3週間,長く記録するような装置もあるということですけれども,このような長時間心電計,特に体につける機器にはどういうメリットがありますか。
安部
例えば動悸を自覚して患者さんがお見えになる。ただし,その動悸は月に1回ぐらいであると。そういった患者さんに24時間ホルター心電図をつけてみましても,その動悸のときの心電図がなかなかつかまらない。そういう患者さんには,この3週間装着可能なベルト式の長時間心電計を装着して記録をとっていただく。入浴時以外は記録がとれますので,それで証拠をつかまえるということをしています。
実際に我々の病院で動悸の患者さんにこのベルト式長時間心電計をつけていますけど,およそ半分の患者さんでは動悸の原因がつかまっています。その原因として最も多いのが心房細動であります。この長時間心電計は,必ずしも動悸だけではなくて,例えば突然意識を失う失神患者さんの原因精査にも非常に有用でありまして,意識を失って回復した後,すぐボタンを押してもらう。ループ式になっていますので,そこでボタンを押してもらいますと,意識をなくしているときの心電図がさかのぼって記録されるため,その失神の原因もわかります。失神患者さん数十名につけた当科の成績では,約3割から4割の患者さんで失神の原因がつかまって,その後,植え込み型のループ式心電計とか,そういったものを入れる必要がなくなる場合も多くあります。非観血的な検査ですので,非常に有用かと思います。
筒井
植え込み型ループ式心電計も,随分小さくなりましたね。
安部
植え込み型のループ式心電計の場合は,保険上,失神の患者さんしかとれないんですね。だから,動悸とかそういうものでは使えないということになります。ただし,脳􄼷塞を起こして,その原因精査のために使うということに関しては認められています。
筒井
ホルター心電図よりも検出率が高くなるということですが,心源性脳塞栓が疑われる患者さんで長時間記録心電計を使うと,どれくらい検出率が上がると期待されるでしょうか。
安部
イベント心電計は,通常1~2週間ぐらい電池がもつのですけれども,患者さんの症状がないとつかまらない。症状があって,始めて患者さんが自分で心電図をとる。ところが,ベルト式のものは,症状がない,いわゆる無症候性の心房細動でも自動記録でつかまるというメリットがあります。ですから,3週間の間で患者さんの症状がない場合でも,後で心電図を解析してみると,そこに心房細動が起こっていたことが明らかになることもありますので,相当な頻度でつかまります。最もつかまる頻度が多いのが心房細動ですね。
筒井
無症候性心房細動の診断には,特に脳梗塞の既往があったり,それが強く疑われる場合に,通常のホルター心電図だけではなくて,より積極的に診断をすることが必要で,そのことが,抗凝固療法の早期の開始につながることの重要性を強調していただきました。
長時間心電図記録器 EV-201
〈製造販売元〉
株式会社パラマ・テック
〈販売〉
株式会社エムアイディ
〒812-0017 福岡市博多区美野島3丁目17番27-1号
TEL (092)436-2555

株式会社フィデスワン
〒812-0017 福岡市博多区美野島3丁目17番27-1号
TEL (092)436-3022

心房細動のカテーテルアブレーションが広まっています

筒井
心房細動の治療に話を移したいと思いますけれども,最初に申し上げましたように,心房細動に対して,カテーテルアブレーション治療は非常に広まってきて,多くの病院で治療が可能になっておりますし,それぞれの施設での患者さんの数も増えています。
カテーテルアブレーションは,心房細動が,心房起源ではなくて,肺静脈起源の異常興奮から始まるという,ハイサゲール先生の新たな発見に基づいていますが,これによって治療の有効性が随分高まったと思います。先生には改めて,心房細動に対するカテーテルアブレーションの患者さんへの適用,どのような手技かについてご紹介いただけますか。
安部
心房細動の治療は,従来は薬物療法が主体でありまして,薬物療法も,症状がある患者さん,あるいは持続性の心房細動の患者さんが主な治療対象でした。治療には抗不整脈薬という薬を使用していたわけですけれども,有効性はいまいち,それほど高くないというのが現状でございました。その後,カテーテルアブレーションという治療が出てきまして,心房細動の治療に関しては,大きく変化してきたというのがこの10~15年の流れだろうと思います。どういうふうに変化してきたかといいますと,カテーテルアブレーションで心房細動を治すことによって,有症候性の心房細動を持つ患者さん,特に発作性の心房細動の患者さんには,症状の軽減とQOL の改善に多大な貢献をしていると思うわけです。
10年から15年という漠然とした期間で言いましたけれども,心房の治療部位自体は何ら変わっておりませんで,ただその間に,高周波だけであったものが,クライオとか,ホットバルーンとか,医用工学的な面や技術的な面での進歩は,少しずつなされてきております。ただ,それらが成功率向上に貢献しているかどうかはちょっと別でありますけれども,少なくともアブレーション手技時間は随分短くなってきました。
現時点でアブレーションの一番いい適用は,やはり症状のある発作性心房細動の患者さんです。かつ,心房もそれほど拡大していない,基礎疾患があまりない,しかも年齢も若く症状も強い,そういった患者さんは一番の適用ではないでしょうか。実際にその症状,発作がなくなることで,患者さんのQOL はかなり改善していると思います。
症状がない心房細動に関してはどうかといいますと,これはまだ一部コントラバーシャルなところがございます。例えば,症状がなくても,持続性の心房細動の場合には,治療効果の判定ができるのでやったほうがいいという研究者もいますし,発作性心房細動で症状がない場合,これは症状がないものですから,やっても治療効果の判定ができないということで,そこはまだ研究者によって意見が分かれるところかと思います。
カテーテルアブレーション治療の成功率は施設によっても,対象疾患,即ち発作性か持続性心房細動かによっても当然違いますし,フォローアップ期間や,再発の検出方法によっても随分違ってきます。発作性心房細動で,比較的基礎疾患がなければ80%以上ぐらいの成功率が見込まれる,なおかつ,比較的安全にできると思っておりますので,これは非常にいい治療だと考えております。

アブレーション後はフォローも重要

筒井
有症候性の発作性心房細動が一番いい適応ですね。そのような患者さんでは成功率が80%ぐらいは期待されるということで,多くの患者さんが受けられるようになっていますね。確かに有症候性であれば,症状が出てくるということで再発もわかりやすいと思うのですけれども,アブレーションを受けた後も再発があるので,それで治療は終わりということではないですね。フォローアップでどのような検査を受ける必要があるのでしょうか。
安部
カテーテルアブレーション治療といいますのは,心臓の肺静脈の周りを焼灼するという治療ですので,当然焼灼した部位には炎症が発生いたします。そうしますと,その炎症が発生している,あるいは炎症が治癒する段階,そういった過程で,心房筋の変性とか,炎症の影響で心房から色んな不整脈が出ることがあるわけです。だから,通常術後3ヵ月間ぐらいは評価をせずに,そういう過程が落ち着いた段階で治療効果を評価しようということで,3ヵ月以降に再発した場合には,もう一度アブレーションをやるということも当然あります。その後発生がなければ恐らく成功しているだろうと考えています。
ただし,成功をしているか,再発をしたかという判断は,その患者さんが治療を受ける前の発作頻度にもよるわけです。例えば1年に2,3回しか発作がないような人が治療を受けて,3~4ヵ月間何もなかったから成功したという判断にはならないわけですね。や っぱり年に2,3回の人であれば1年間ぐらい診て,起こっていないかどうかという確認が必要になります。週に1回とかいう人が全くなくなれば成功ということがわかりますけれども,その成功の基準も,患者さんの発作頻度によって評価する期間が,異なってくるということがございます。ただし,一般的には,手術後3ヵ月間というのは,焼いたことによる影響で,治療の成功・不成功と関係なしに心房細動が起こってくることがありますので,通常その3ヵ月間というのは,ブランキングとして考えているというのが現状かと思います。

アブレーション後も再発という問題が

筒井
3ヵ月間はブランキングピリオドで,それ以降の再発が問題ですね。先生のお話では,症状が非常に重要だということですね。再発がないかどうかということをみるに,ホルター心電図検査は必要ですね。
安部
定期的な通常の心電図検査をした上で,もし患者さんに症状があれば,24時間ホルター心電図をとることもありますし,場合によっては,3週間のベルト式ループ式心電計をつけるということもあります。
症状があったので,再発したかと思って心電図を調べてみますと,実は,以前は心房細動だったのが,今回は心房細動ではなくて,心房頻拍だったということも,カテーテル治療をした後に時々出ることがあります。症状が再発してきた場合には,それが心房細動なのか,心房頻拍なのかということもありますので,きちんと発作をつかまえるということは,やっぱり大事ではないでしょうか。
筒井
そこはまた心房細動の診断に立ち返って,新たに診断をするということですね。やっぱり症状が非常に重要だということですね。
安部
そうですね。
筒井
ですから,手術をする前の頻度によりますね。年に数回の人であれば,最低1年はフォローしないと評価ができませんし,月に何回も起こっている人であれば,比較的早く評価ができるということですね。
安部
ですから,手術をする前の頻度によりますね。年に数回の人であれば,最低1年はフォローしないと評価ができませんし,月に何回も起こっている人であれば,比較的早く評価ができるということですね。
筒井
やっぱりアブレーション前の発作の頻度が非常に重要ということですね。
安部
はい。

アブレーション後も抗凝固療法は継続

筒井
アブレーションを受けた患者さんから,洞調律になって脳􄼷塞になる心配もないでしょうから,もうこれで長らくやってきた抗凝固療法をやらなくていいですかという質問があります。アブレーション後の抗凝固療法はどうしたらいいですか。
安部
アブレーション治療をしても,抗凝固療法は継続するのが基本だと考えています。ただ,心房細動があっても,CHADS2スコアが0点の患者さんの場合は,DOAC は投与しなくていいとガイドラインに載っていますので,そういう患者さんの場合には,アブレーション治療後にDOACを切るということはあります。しかし,もともとCHADS2スコアが2点3点という脳􄼷塞のリスクが中等度以上ある患者さんの場合には,カテーテルアブレーションで症状が改善しても,基本的には抗凝固療法は継続しています。
その理由は,症状がなくなっても,実は無症候性の心房細動が発生していることもしばしばあります。特に3週間のベルト式長時間心電図をつけてみますと,症状はないのに,無症候性の心房細動が比較的起こっている場合もあります。実際,持続時間の短い心房細動があるということもしばしば経験していますので,基本的に抗凝固の適用である患者さんの場合には,そのまま継続すると考えています。
筒井
本日,安部先生から無症候性心房細動をどう診断するかということで,心房細動の患者さんを診たときの心電図,さらにはホルター心電図,そしてどういう場合に長時間心電図を必要とするかについて,大変わかりやすくお話しいただきました。最近,アブレーションが急速に広まっていますけれども,アブレーション治療を受けた患者さんの管理のやり方についてもお話しいただきました。プライマリケアをやっておられるかかりつけ医の先生方が,心房細動の患者さんを診療される機会が増えていますので,参考にしていただけるお話であったと思います。
本日はどうもありがとうございました。

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