• ホーム >
  • 対談 >
  • COPDの上手な薬の使い方

対談

COPDの上手な薬の使い方

語る人

国立病院機構福岡病院長
岩永 知秋

聞く人

九州大学名誉教授
「臨牀と研究」編集委員会
大石 了三

大石
本日は,国立病院機構福岡病院の院長をしておられる岩永知秋先生に,「COPDの上手な薬の使い方」と題しまして,いろいろな話をお伺いしたいと思います。岩永先生,よろしくお願いいたします。

福岡病院について

大石
福岡病院は,特に呼吸器疾患で非常に有名な病院でありまして,専門医も非常に多いとお聞きしているところですけれども,まずは福岡病院のご紹介をしていただきたいと思います。
岩永
国立病院機構福岡病院は,総合病院というわけではないのですけれども,呼吸器,アレルギー,小児科,さらに重症心身障害の病棟を持っております。もともと前身は療養所であり,昭和46年に国立療養所南福岡病院という形でまとまりまして,その後,平成16年に独立行政法人国立病院機構福岡病院と,「南」が取れて「福岡病院」になっております。呼吸器は内科,外科にそれぞれございますし,小児科は呼吸器,アレルギーが主力であります。アレルギーについては,呼吸器内科,アレルギー科,小児科のほかに皮膚科,耳鼻科,さらに心療内科もあるので,総合的に診ることができるというのが一つの特徴です。また,国立病院機構には臨床研究部がありまして,臨床研究を行うことが奨励されています。最近では臨床治験もかなり入ってきていますけど,臨床研究部があるというのが大きな特徴であり,強みであろうと思います。私も昔,臨床研究部長の時期がありました。
大石
現在,COPDの外来の患者さんはどれくらいおられるのでしょうか。
岩永
年間1,000名を超える患者さんを外来で診療しています。
大石
増えているのですか。
岩永
COPDは,もともと喫煙人口が多かった高齢者に多い病気ですから,人口の高齢化とともに増えてきています。COPDというのは,喫煙してもすぐは始まりません。早くて50代,普通60代,70代ぐらいから発症しますから,高齢者の人口が増えてくればだんだん増えてきます。
大石
臨床治験もされるということですが,患者数が非常に多いと症例もすぐ稼げるということで,非常に有利な点があるのではないかと思いますけど。
岩永
そうですね。
大石
COPDの入院患者さんはどれくらいおられるのですか。ほかの病院からの紹介もかなり多いと思いますけれども,それは九州全域からですか,やっぱり福岡県が多いですか。
岩永
入院患者は年間550名程度です。福岡県が多いですが,時々九州管内からも来られたり,紹介を受けることはあります。
大石
先ほど専門医のことに少し触れましたけれども,あれは呼吸器専門医ということですか。
岩永
そうですね,呼吸器内科の専門医です。
大石
それは何人ぐらいおられますか。
岩永
現在14人います。
大石
それは,専門病院としてはかなりの数ですか。
岩永
多い方だと思います。大学に近いレベルかなと。
大石
先生は以前,副院長をされていて,今は病院長ということですが,仕事の内容は随分変わりましたか。
岩永
私は1991年から2002年までこの病院にいまして,それから福岡東医療センター,久留米大学を経て2008年にまた戻ってきまして,2009年から院長になりました。院長業務のかたわら,臨床も継続しています。
大石
先生ご自身が外来とか入院患者さんを診ているということですね。
岩永
今,外来は週3回持っています。
大石
それはかなり多いですね。
岩永
そうですね。週2日新患の外来,週1日再来をしております。
大石
それはやっぱりご指名で来られる患者さんがいるということでしょうね。
岩永
はい,そういう方もいらっしゃいます。うちの病院の規模だから院長も診療ができるのでありまして,もっと大きな病院になると管理業務が多いため,診療は不可能ではないかと思います。
大石
そうはいいましても,病院長になられると,やっぱり経営のこととか,全体の管理のこととか。
岩永
経営もありますし,人事や労務,医療安全など種々の問題を扱うのが仕事です。
大石
そういうような仕事に時間をとられることも多くなると。
岩永
もちろんそちらが主たる業務ですが,私としては,やはり医師としての本分はできればなおざりにしたくないということで,内科の回診,病院全体の定期巡視もそれぞれ月2回しております。
大石
それだけ専門的になりますと,人材を集めることや人材を育成することにも非常に努力されていると思いますけれども,その点はいかがでしょうか。
岩永
以前から九州大学の各教室と強い結びつきを持っています。呼吸器は呼吸器内科から,呼吸器外科は二外科から,小児科は小児科教室から人材を送っていただいています。リウマチ・膠原病内科・感染症は第一内科からですし,心療内科,皮膚科,耳鼻科,循環器内科,放射線科なども九州大学の各教室から派遣していただいています。呼吸器は久留米大学からも派遣をしていただいており,短期の初期研修医は福岡大学からも人を送ってもらっております。また,小児科は学会活動が盛んなものですから,全国から若い人が2,3年ぐらい勉強して帰っていくということをやっています。

COPDと喘息の違い

大石
それでは,本題のCOPDの話をお聞きしたいと思います。
 まず,COPDは喘息と似たところもありますが,病態とか治療を考える上で,その基本的なところをお話頂きたいと思います。
岩永
似ているところは,気道の閉塞性病変,すなわち気道が狭くなるところが共通しています。したがって症状も,気道が狭くなることで,呼吸困難,咳,たん,喘鳴や体動時の息切れなど,かなり共通しております。したがって,時々鑑別が難しいことはあるのですが,基本的な考え方として,2つはまず分けて考えます。
 喘息のほうは好酸球を主体とする気道炎症が本態です。この炎症は小児では主にアレルギー性の炎症ですが,大人になってからは必ずしもアレルギーの関与が強くなくて,ウイルスの気道感染,つまり感冒の後に喘息を発症するというパターンです。ここには自然免疫の関与が最近明らかにされつつありますが,その後の経路は,アレルギー性炎症に共通する炎症を起こしてくる,そういう気道の炎症だと考えられています。
 ところが,COPDのほうは好中球を主体とする気道炎症と肺胞の破壊を本態とします。そしてその成因の8割以上,日本では9割ぐらいが喫煙によるものです。たばこを吸っている人の20%ぐらい,10人に2人ぐらいに起こってきます。また,最近の話題として,重症の小児喘息で肺の成長が悪いと,COPDへと移行する可能性も指摘されています。いずれにしても,炎症の性格や関与する細胞がCOPDと喘息では大きく違うので,治療も変わってきます。COPDと気管支喘息を分けて考えようとするのは,治療が異なるためです。
 組織学的に見ると,喘息の方は,気管支の粘膜の浮腫,気道平滑筋の肥厚,気管支腔内への粘液分泌など,気管支内腔や気管支壁の問題により,気道自体が狭くなります。一方,COPDでは気管支内腔の問題も一定程度あるのですが,むしろ気管支の外側からの影響が大きいのです。これは末梢気道,つまり細気管支レベルの話ですが,細気管支には肺胞が隣接しており,細気管支を外側へ引っ張る力,これを弾性収縮力といいますが,この力が働いて気道を開くのです。ところがCOPDでは,肺胞の壁が壊れ気腫化が起こってきますと,この弾性収縮力が弱くなるものですから気道が狭くなるわけです。このように,気道が狭くなるメカニズムが,2つの疾患で大きく異なります。
 治療としては,好酸球性の炎症を起こす喘息には吸入のステロイド薬が抗炎症作用の面で最強ですし,これを欠かすことはできません。一方,COPDは,好中球を主体とする炎症ですから,吸入ステロイド薬は基本的に効きません。治療の主役は気管支拡張薬ですね。近年,優れた長時間作用性の気管支拡張薬が,COPDの治療を大きく変えました。
大石
そうすると,COPDと喘息の診断がきちっとつけられる場合,あるいは,その両方がある場合ももちろんあるわけですね。
岩永
はい。今トピックスの一つになっていますが,ACO(S),すなわちAsthma COPD Overlap(Syndrome)という,喘息とCOPDのオーバーラップ(症候群)という病態が提唱されています。COPDの20%ぐらいが喘息を合併しているとされます。
大石
それは結構多いですね。
岩永
はい。もともと喘息がある人たちが喫煙をしてそうなる場合もあるし,人によっては,もともと喘息の病歴ははっきりしなかったけれども,初診時既に喘息とCOPDの部分が一緒にあるという方もおられます。
大石
どちらにしても,そういう診断をきちっとつけて,基本的な治療戦略,どっちを主体にやっていくかということをまず最初にするのが重要なわけですね。
岩永
そうです。

COPDの治療の進め方

大石
では次に,COPDの治療の進め方ということで,特に軽症から中等症,重症,そういう方たちを対象にした話をお伺いしたいと思います。
 先ほどお話がありましたように,気管支拡張薬の抗コリン薬,β2アゴニスト,そういうものが中心になっていく。もちろんその前に禁煙があってというのが基本的な治療の進め方だろうと思いますけれども,現在のガイドラインは2013年の第4版になりますね。
岩永
間もなく,第5版が出ます。
大石
これは先生も作成委員に入っておられるということですね。
岩永
第2版から第4版まで入っておりました。
大石
そうですか。最初にガイドラインのポイントとか,ガイドラインに従って治療を進めていくうえで注意点とかがありましたら。
岩永
治療は重症度に応じて段階的に進めていくという考え方です。重症度は4段階に分けています。基本的なところは呼吸機能により規定され,予測の1秒量,標準の1秒量というのが計算で出てきます。それに対してその人の1秒量はどれぐらいあるかというのが対予測1秒量(%)という指標ですが,それによって4段階に分けております。
 さらに,重症度は単に呼吸機能だけではなく,他の要素も加味して判断します。例えば増悪です。COPDには増悪という現象があるのですが,欧米では年に1~2回ぐらい。日本のデータでは年に0.6回ぐらいで,欧米の半分ぐらいしかないのですが,増悪が繰り返すかどうか。増悪を繰り返すようだったら,呼吸機能も含めて少し重症に考えていく。あるいは症状,特に労作時の息切れ,身体活動性といったものを勘案して重症度を決めています。
大石
薬のところはまた後で聞きますけど,これは進行性の病気ですね。
岩永
基本的には,通常進行性であると理解されています。
大石
禁煙をきちんとしても,やっぱりその後も進行していくと考えられますか。
岩永
確かに禁煙をしても進行する方がおられますが,一般には禁煙により進行速度は低下します。COPDでは進行する度合いも非常に速い方から遅い方まであることが知られています。一応進行性という認識ですけど,北海道大学のコホート研究では,呼吸機能が非常に落ちる人からあまり落ちない人までばらつくことが報告されています。だから,必ずしも全部が進行性というわけではないですが,特にその中で呼吸機能が速く落ちていく人たちがより重症というふうに考えます。
大石
禁煙をすると,そのスピードは確実に落ちるわけですね。
岩永
落ちます。通常は4,5年たつと,大体一般の方の老化に伴う呼吸機能の低下のスピードに近づくと言われています。ただその中でも,原則に当てはまらない,たばこをやめてもどんどん落ちていく方がいる。それがなぜかというのはまだわかっていません。
大石
COPDで受診される方の最初のきっかけというのは,どういうことで来られるのでしょうか。
岩永
症状で言えば,咳や痰,とりわけ労作時の息切れです。例えば,坂道とか階段を昇る際,あるいは布団を上げたり,重い荷物を持った時など,最近どうも息切れがするようになったというふうなことですね。
大石
でも,それは徐々になっていくことですね。
岩永
そうです。だから,あまり気づかない人が多い。しかもたばこを吸っている方が多いものですから,年齢とたばこのせいだと思って,COPDという病気であることがあまり頭に浮かばないのです。
大石
そうすると,かなり進んで来られるという方も結構おられるわけですか。
岩永
そうですね。それから,増悪を起こして受診する方がおられます。つまり,風邪をひいたときに,呼吸器症状が強くなって来るという方がおられます。COPDの方の初診動機としては,症状で来院するパターンと,2つ目には,肺年齢。要するに,呼吸機能を調べて,肺年齢が高い,呼吸機能が低下している,と言われてやってくる方がいらっしゃいます。3つ目には,胸部のレントゲン写真の所見からCOPDを疑われて紹介を受けるパターンがあります。
大石
それは普通の健康診断とかで指摘されるのですか。
岩永
はい,そういうことですが,レントゲン写真で見つかる場合は過膨張所見で発見されるため,かなり病期が進んでいます。症状と呼吸機能と画像,おおよそその3つぐらいが受診動機でしょうね。
大石
最初に受診される方の年齢で一番多いのは幾つぐらいでしょうか。
岩永
50代から見られますが,多いのは60歳から70歳ぐらいですね。

禁煙の重要性

大石
それで,たばことの関係はもうかなりはっきりしているわけですね。
岩永
これははっきりしています。
大石
教科書的にいくと,まず絶対禁煙をさせなさいということですけれども,それがなかなか難しい場合も結構あると。
岩永
難しいです。ニコチン依存症が本態ですから,もちろんそう簡単ではありません。
大石
普通だったら,このまま病状が進行して危険になるよと言われたら,どうしても禁煙しようと思うでしょうが,そう思って自分で禁煙できる人は大体どれくらいおられますか。
岩永
独力で禁煙する方も2割3割はおられるのではないでしょうか。ほかの病気,例えば心筋梗塞をおこしてやめる人もいますし,実年齢は60代なのに肺年齢が90代と言われてショックを受けてやめるとか,あるいはお孫さんができたからやめるとか,そういう方もいらっしゃいます。しかし,本来ニコチン依存症ですから,血中のニコチン濃度が下がってくると,やっぱりたばこを吸いたいという欲求が高まるので,禁煙することは簡単ではありません。
大石
受診された患者さんは大体どれくらい吸っておられますか。
岩永
1箱以下からいらっしゃいます。
大石
1箱から2箱とか。
岩永
はい。2箱も普通におられますね。
大石
やっぱり期間が長い方が多いのですか。
岩永
20歳ぐらいから,あるいはもっと前から喫煙を開始した方もおられ,吸い始めが早いほど,リスクが高くなってきます。ですから,普通にいくと40年ぐらいは吸っているということになります。
大石
私は団塊の世代ですが,大学生のころはかなりの人がたばこを吸っていました。
岩永
吸っていましたね。私も学生時代だけは吸っていましたけど。
大石
でも,10年くらいでやめた人も結構多い。これは,やめてどれくらいしたらそんなに影響がないというものなのでしょうか。
岩永
呼吸機能の経年的な低下速度は,4,5年たつと大体一般の方の老化に伴う低下速度に近くなると言われています。ですが,それでそのCOPDのリスクがどれぐらいになるかという実際上の計算はあまりありません。しかし,もちろん吸い続けるよりはリスクは確実に減ります。
大石
禁煙指導はドクターもされるでしょうし,看護師とか薬剤師も当然するでしょうけれども,それがなかなか難しい場合は禁煙外来を勧めることになるのですか。
岩永
そうですね。ただ,外来に来られるたびに禁煙の話をすることは非常に意味があると,世界的なガイドラインのGOLDにも書かれています。ですから受診のたびに,「まだ吸っていますか。やめましょうね。」「禁煙に1,2度失敗しても,あきらめずにチャレンジを繰り返してしてください。」という指導をします。
大石
それでも禁煙が成功しないような場合は,やっぱり禁煙外来を勧められるわけですね。
岩永
はい。
大石
うまくいかなかった例でも,禁煙外来に行くと結構成功するものですか。
岩永
禁煙外来に来るということは,もともと禁煙をするという意思があるわけです。まずその意思を確認した上で,どれぐらいたばこ依存があるか判断します。そのうえでニコチンパッチなどのニコチンの置換療法,あるいは今はバレニクリンという経口薬を用います。バレニクリンは脳内のニコチン受容体に対して,競合的な阻害を行います。一方で,部分的なアゴニストでもあるものですから,それなりの満足を得ながら,かつ,もうたばこは要らないというふうになってきます。保険診療上はその2つの方法,ニコチンパッチとバレニクリンが認められています。
大石
バレニクリンのほうがニコチンパッチよりも使いやすいのですか。
岩永
バレニクリンのほうが禁煙成功率も高く,一般的でしょうね。パッチは皮膚がかぶれるなどの局所的問題があるものですから。ただしバレニクリンは,場合によって嘔気,うつ症状,めまいなどが出ます。特にうつについては注意が必要です。投与期間は自動車の運転はやめましょうといった指導も必要です。
大石
患者さんの禁煙成功率は大体どれくらいですか。
岩永
バレニクリンの場合,12ヵ月後の禁煙率は,プラセボ対照で3倍以上と報告されています。ニコチン置換療法やバレニクリンの薬物療法に加えて,行動療法も加える必要があります。本来,心理療法士,精神科医,心療内科医などが加わればいいでしょうけど,それは一般の病院診療の中では簡単ではないので,同じ内科医が,例えばライターとたばこは撤去しましょうとか,歯磨きやうがいをしましょうとか,気分転換の方法を考えましょうなど,細かな指導もします。

吸入剤の使い方

大石
次は,吸入剤の話を伺いたいと思います。ガイドラインでは,長時間作用型の抗コリン薬またはβ2 アゴニストということで,「または」という書き方ですね。どちらかと書いてありますけれども,普通はどちらを使うのですか。
岩永
私どもは普通,長時間作用性抗コリン薬(LAMA)を第一選択にしています。というのは,コリン作動性神経を抑制することが,本疾患の病態により即したものであり,また増悪の抑制効果も長時間作用性β2刺激薬(LABA)より大きい,との報告があるからです。また,抗コリン薬の中でも最初に出てきたチオトロピウムは,4年間にわたり,約6,000名を対象とした大規模研究が行われて,症状,肺機能,増悪,QOLを改善しました。また,中等症については経年的な呼吸機能の低下を抑制し,オーバーオールで見ても,死亡率をわずかながら改善しました。このことは,LAMAのデータが豊富で,エビデンスレベルが高いということです。
大石
吸入剤を選ばれるときに,今は1日1回の製剤がどんどん開発されてきて,将来1日1回の製剤ばかりになるのではないかという感じがしますけど,まずはそういう薬剤を選ばれますか。
岩永
はい,アドヒアランスを考えるとそうでしょうね。現在わが国で使用できるLAMAは,4種類のうち3種類が1日1回です。
大石
それともう一つの要素で,エアゾールタイプかドライパウダータイプかということで,LAMAの場合は,1日1回の製剤ですと,チオトロピウムだけがエアゾールもありますが。
岩永
チオトロピウムの吸入器具はソフトミストインヘラーというもので,薬剤の噴霧速度がやや遅くフワーッと出てくるものですね。
大石
どのようにして選ばれているのですか。
岩永
患者さんと相談しながら決めています。
大石
そうすると,まずはLAMAを使われて,それから症状を診てLABAを加えたほうがいいということであったら,合剤を使っていくというようなパターンが多いですか。
岩永
一般的にはそのようにステップワイズに進みますが,中等症以上,特に重症の方は最初から配合薬を使います。増悪を起こしやすい症例に対して,以前は吸入ステロイド薬(ICS)とLABAの配合薬(ICS/LABA)が推奨されていましたが,最近の研究で,ICS/LABAよりもLAMA/LABAの配合薬が増悪の抑制に優れることが報告されました。したがって,配合薬においては,ICS/LABAのCOPD治療における意義は相対的に低下し,LAMA/LABAの評価が高まっています。

吸入剤の副作用

大石
COPDでは高齢者が非常に多いわけで,前立腺肥大とか緑内障の場合もかなりあるかと思います。LAMAは禁忌になっていますけれども,その対応はどうしていますか。
岩永
前立腺肥大があっても,排尿障害がなければ,LAMAの吸入でそれが悪くなるということはほとんど経験しません。ただ,排尿障害を伴うようなものですと,LAMAは使えず,LABAということになります。緑内障の場合はもちろんLAMAは使いません。
大石
全身性の副作用というのは,パーセントとしてはそんなにないだろうと思いますが,チオトロピウムの申請時の臨床試験のところで,高齢者に口渇がよくあらわれるとありますが。
岩永
口渇はある程度出てきますね。
大石
それはやはり全身性の作用のファクターですか。局所作用もかなりあるのではないかと思うのですが。
岩永
局所作用も大きいと思います。例えばほかの外分泌腺の問題というのはそんなにないので。ただ,口の中が乾くという方は時々いらっしゃいますが,実際それでやめざるを得ないという方は例外的です。
大石
普通の診療では,全身性のLAMAの副作用はそう考えないでいいということですね。
岩永
そう思います。ただし,緑内障と,排尿障害を伴う前立腺肥大がないかどうかは確認しておく必要があります。

治療効果の評価

大石
それから,外来の場合,普通は何週間,何ヵ月ごとに通院されているのでしょうか。
岩永
平均すれば1ヵ月ごとでしょうか。
大石
1ヵ月後に来られたときはその状態を調べていくわけですけれども,患者さんご自身でも毎日症状を記録するとか,ピークフローメーターで測定するとか,そういうこともありますか。
岩永
それはあまりしておりません。例えば,喘息ですとピークフローは日内変動や日日変動も結構あり,季節によって下がったりするということがありますが,COPDは比較的それが少ないと思います。それより,詳細に症状を聞いたり,質問表を使ったりすることがあります。これはCAT(COPD Assessment Test)という質問票があり,咳,たん,呼吸困難,睡眠,身体活動性などをチェックするものです。
大石
自己チェックみたいなものですね。
岩永
はい,そういうものを書いてもらうこともできます。しかし普通は,症状や普段の生活がどうかということをできるだけつぶさにお聞きします。それから,数ヵ月に1回ぐらい呼吸機能検査,スパイロメトリーを行うということで客観的に評価しています。
大石
それは3ヵ月に1回ぐらい行っているのですか。
岩永
およそそれくらいですが,治療を開始したり変更した後は,その間隔を少し詰めます。
大石
それで治療がうまくいかないような場合は,どういう理由によることが多いのでしょうか。
岩永
まず,正しい吸入ができているか,また吸入を忘れずに行っているかが重要です。実際,吸入がちゃんとできていない方,服薬のアドヒアランスが悪い方が想像以上におられます。吸入薬には単剤,合剤を含めていくつかの種類があるとともに,薬剤によって吸入器具が異なります。これは困ったところですが,いいところでもあるかもしれません。これがうまくいかなければ別のものにしましょうとか,切り替えることができるからです。いい薬剤でも,きちんと適正に吸入できなければ意味がありません。
 また,禁煙をして間もない方は,再喫煙をしていないか確認することも必要です。それから,喘息の合併がないか,いわゆるACO(S)ではないか見直すことも必要です。気管支喘息の合併があれば,吸入ステロイド薬の併用が必須です。
 治療効果があまり芳しくない場合,身体活動性の低下がないか,低栄養がないか,肺高血圧がないかなどのチェックも必要です。これらはいずれもCOPDの予後規定因子として重要であり,それぞれ呼吸リハビリテーション,栄養療法,肺高血圧治療が必要となります。
大石
数ヵ月間あまり芳しくない場合は総合的に考察すると。
岩永
はい。まずは,毎日吸入していますか,うまく吸入できていますかということを聞いていきます。
大石
患者さんのいろいろな背景を考えて治療していく必要があるのですね。本日は,大変有意義なお話を聞かせていただき,どうも有り難うございました。

バックナンバー